今はただ水が飲みたい
瀬崎 虎彦

戻れるのだろうか 
土を踏みしめて歩く
背の低い草に
皮膚を破られながら裸で
今にも雨が降りそうな
空を眺めている

戻れるのだろうか
世界は見知った世界に
少しも似ていない
埃っぽい沈んだ色の
土器のような姿で
熱い炎に置かれている

戻せるのだろうか
撃鉄を起こし引き金を引いて
すでに放擲された
地獄の種を追いかけて
ゼノンのパラドクスのように
いつまでも追いつかない
絶望を追う希望の力で

そんなことを思う暇はなかった
今はただ水が飲みたい


自由詩 今はただ水が飲みたい Copyright 瀬崎 虎彦 2009-08-11 15:54:02
notebook Home