覆水のひと
恋月 ぴの
鯵の開きってあのままの姿かたちで泳いでいるのかな
だなんて今さらながらにとぼけてみせても
私は私自身に過ぎなくて
迎え火で迎え
送り火で送る
ヒグラシの鳴く音に季節の移ろいを覚え
冷蔵庫で冷やしたパック売りの西瓜を味わいながら
母からの便りを読み返してみる
覆水盆に帰らずの盆とは違うんだったよね
なんとなく同じような気もするし
茄子で作るのは馬だっけそれとも牛だったかな
正直なところお盆って言われても
それこそ盆踊りぐらいで
糊のきいた浴衣に
赤い鼻緒の下駄かたかた鳴らしながら
扇子より団扇似合うよねとひとりごちた思い出
いやいやながらも実家へ戻れば父の遺影飾ってあるし
おしゃべりな母の味はやたら懐かしくて
説教じみた昔話しを聞き流しながら
いつの間にか薮蚊に刺され赤く腫れあがった足首を掻く