舞台裏
山中 烏流
隣の部屋の老婆が
拾ってきたのであろう西瓜を
妹は器用に食べ進め
その残骸を
彼女は私の枕元に置き去り
遂には
そこから芽が生えてきて
いつしか
私の寝床たる場所は
西瓜の名産地だと
言われるようになってしまった
母親は
窓辺の安全装置である
仮想エアバックに打ちのめされて
これでもかというくらい
うなだれながら
誰も
見ていない夜中のうちに
彼女曰く趣味だという
内職の腕を
存分に振るっているそうだ
私が見に行った時
そこには
誰もいなかったけれど
*
当たって砕けろ精神を
持て余しているらしい彼は
人里からそう遠くない断崖で
何かの名前を叫びながら
飛び立ってしまったのを
彼の彼女の元彼の友人が
目撃していたらしく
その葬式に訪れていたのは
全くの他人の群れと
近しい他人だけだった
*
私の背の正面で
誰かの声がする
しかし
その姿が
私からは見えない以上
この認識は
決して、正しくはない
*
ほの暗い地下書庫の暖炉で
私が色々を燃やすのを
誰も
咎めることはなく
むしろ
彼らは嬉々とした表情で
私のとる一部始終を
ただ、じっと
眺めているだけだ
同じように
私の投げ込んだものを
拾い集めて
水ぶくれの目立つ手の平が
それを
並べなおすのを
私は
咎めずに
聞こえないふりをしている
*
彼の発言の芯は
常に
意識の外で
育まれている
彼女はそれを知っていて
常に
常識の内でのみ
その真意を
図ろうとしている
彼は
常識を知りながら
その
外側に向けて
様々を呟いている
彼女の意識は
その境界に
ほとんど
触れない範囲の世界で
育まれてきたのだ、と
誰かが言っていた
*
例えば
後ろを振り向いた瞬間に
今まで見ていた全てが
終わってしまうとするならば
終わってしまったあと
そこに育まれていくのは
いつかの
西瓜のつるなのだろうか
それとも、
誰も気がつかない程に
全く別の仮定たちが
息づいていくような
そんな
世界だろうか