イルカおかえり
小池房枝

イルカを見ていると
いろんなこと考えさせられる
あんたたち
水を跳ね飛ばすのわざとやってるでしょう

まっすぐにジャンプして
少しだけ横倒しに
ややわき腹から着水

一瞬のうちに
ひろがる水しぶき
散りはて躍りかかる満開の花びら

人間たちがキャーキャー言いながら
本当は大喜びしてるの
覚えたんだね

憂さ晴らしか
それともサービスか
どちらにしても
気に入りの遊びの一つであってくれればいい

裁縫上手なひとの縫い針が
見え隠れに布を滑っていくようで
波縫いといったっけね
波縫いというんだよ

本当はいくらでも
細波一つ立てずにジャンプ
飛び込むことだってできるだろうに

空気の泡が
水の中に幾本も
螺旋に縒りをかけてくるくると紡がれる
その数はいつも太いものなら五本

飛び出して
飛び込むまでに描く弧の
その一部分を切り取ったかのような弓なりの体
かぐろきメーヴェ

バンドウイルカのシェリルなんて
自分だけが出来る後方宙返りって
どんな気分だろう

誇らしいというより
やっぱりただ面白いんだろうな
跳ぶこと
君たち本気で遊ぶものね

仰向けになって
ラッコみたいに死んだふりして
つつかれていたりつついたり

体当たりしつつ
体当たりされつつジャンプしたり
水中鬼ごっこ

バンドウイルカと同じだけの技を
ゴンドウイルカまでもが
重々しくも軽がると
またもやその水しぶき

そのうちカッカッカッカと
水戸黄門さま笑いでも始めそうなイルカたち
水族館で生まれ育ち
水族館で世代を重ねて来た君たち

今は
いてくれてありがとう
だけどいつか海へお帰りね

地震か
台風か
いつか高波か津波が来たら
海へおかえり
外で生きる術は外の仲間に教えてもらえる

そのときまでね


自由詩 イルカおかえり Copyright 小池房枝 2009-08-05 21:00:42
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