夏は香ばしく
あ。

その浅黒い皮膚に噛み付いたら
あぶった海苔みたいにぱりぱりと
香ばしい音がすると思う



千切れそうにもない入道雲だって
記憶よりも向こう側のヒトコマで
物干し竿にぶら下がる風鈴の音だって
いつかは忘れてしまう出来事



忘れ去られた思い出の後に
新しい出来事がかさなって
幾重にも綺麗に積み上げられて
また新しい記憶になる



目に見える淡さは溶けて流れて
鮮やかさだけがくっきりと焼きつく
そのくせこんな季節のこころは
曖昧でゆるくて柔らかい



崩れないのはきっと
ぱりぱりの外面に覆われているから



泣きたくなんてない
真夏の向日葵みたいに太陽を向いて
いつだって大きく笑っていたいのに
眩しすぎる陽射しがすき間を作って
潤そうとするから困ってしまう



もしも夏に噛み付いたとしたら
ぱりぱりとした歯ごたえの後に
犬歯がぷちんと皮を破って
中から甘い水が溢れてくると思う



自由詩 夏は香ばしく Copyright あ。 2009-08-05 19:50:36
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