全天の踊り子
伊月りさ

長雨は
母の辛抱
わたしの鏡に降り続く

快晴は
彼の信頼
わたしの鏡を照りつける

そしてうつくしい反射が生まれ
記号化していた言動が
みなぎるダンス・ステップになる

踊るわたしはあなたを感じる
路地の植込みも跳ね起きて
向き合う他人が頷くリズム
この光が滴るすべてに
張りつめた二の腕の冷たさを感じる
刻々と熱を奪われて
氷結と溶解を同時に感じる
ただ流れるようにわたしは踊る

水溜まりに
踏み込んだ踵
そこから歪んでいくのだ、という
警鐘もゆっくりと押し沈め
切れ味のよい細い糸を
足首に絡めたままに

曇り空の深奥から
女子校生の行列の音のような
クラップに騙されているのかも知れないが

わたしはいま
横断歩道が楽しい
電車の乗り換えが楽しい
大群をすり抜けるラッシュ・アワーが楽しい

この緊張したまとめ髪を
いつまでもほどこうとする雨が楽しい

この爪先から滲む血を
いつまでも輝かせている陽が楽しい

いつまでも
いつでも
頭上に空が在ることが楽しい
うつしきれない広漠が楽しい
あなたを感じることが楽しい
流れるように踊るのが楽しい


自由詩 全天の踊り子 Copyright 伊月りさ 2009-08-05 01:17:34
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