夏帽子
たもつ

  
水槽を抱えて
列車を待ってる
水槽の中には
やはり駅とホームがあって
幼いわたしがひとり
帽子を被って立っている
ある長い夏の休みの間
ずっと被っていた帽子だった
水の中もやはり暑いのだろうか
時々手で顔や首筋を扇いでいる
やって来た列車に乗ると
車内には
どこかに行きたい人と
どこかに行かなければいけない人と
どこにも行くあてのない人とがいて
みな同じように水槽を抱え
黙って座席に腰掛けている
水圧で耳が塞がれているような
静けさのなかを列車は進む
やがて鈍くなっていく速度と
崩れていく形という形
本当は自分自身が
水槽の中にいたのだと気づく
帽子を被ったわたしが列車に乗るのが
水槽のプラスチック越しに見える
会いたい人がいて
見せたいものがあった
ただそれだけがすべてで
それだけですべて
許される気がしていた
 
 


自由詩 夏帽子 Copyright たもつ 2009-08-04 20:28:19
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