8月4日/過呼吸に見舞われない為に
遊佐
八月の桟橋の上から夏を覗き込めば
青い空にはキラキラ、ゆらゆらと、
白い雲にはもこもこ、ムックリと、
緑の木々の枝葉にはニョキニョキ、ほんわかと季節の欠片達
そこらじゅうに浮かび上がり、
そこはかとなく漂い、そこかしこに染みて行く。
一つに纏めれば真新しい皺となり額に収まって行く
また来たよと囁くように
挨拶代わりに。
一つ風が吹く度に、
一つ光が煌めき放つ度に解けて甦る記憶の欠片達が
また今年も額に深く刻まれて行くから
夏は年を負う毎に色濃くなり続け
大地から離れて行く分だけ空が近くなったと感じてしまう
沢山在りすぎて縺れてしまった糸の、
ピカピカのキラキラと一番綺麗に光るヤツを、
そっと摘まんで引っ張ってみれば
ずっと遠くに浮かんだ逃げ水の中から
真っ黒に日焼けした坊主頭の僕が
自転車に乗りやって来る
風をきり、風を裂き、風を纏って弾けるように
唄なんか歌いながら
嬉しそうに
楽しそうに
まるで世界の真ん中を行くように
笑っている
笑っていた…
日溜まりと日陰の境が在るように
其処に君は居ない
去年の夏には確かに居た君、笑わない僕の隣りで、いつも笑っていた君
今も笑っているのだろうか
七月は
まだ終わったばかりで、
其処に君が居たことも沢山の埃達と一緒に
くるくると
ぐるぐると
まだ至るところに漂っている
まだ馴染めない八月の匂いに軽くむせながら僕は、
夏を吸い込み
夏を吐き出す
そして、
溜め息だけが風に運ばれて遠く旅立って行く
いまを手にしたら
秋を待たずに素早く塗り込めて記憶の中に閉じ込めよう
来年も笑っていたいから…
ビルの上なら高過ぎて目が眩むから
芝生の上なら空がとてつもなく高いと感じてしまうから
だからこうして
少しだけ前に出て
太陽と潮風の真ん中で桟橋の上から周りを見渡す
吸い込んで
吐き出して
夏、八月の暑さを逃れ都合の良い記憶だけ残せるように
桟橋の上