輪生〜the ring is saying〜
伊月りさ
何回目の向日葵だろう
わたしは到底知らないけれど
去年は台風で咲き損じ
今年は少しだけ多く芽吹いた
眼前の厚ぼったい黄いろ、黄いろ、黄いろ、
溢れる規則的な渦巻きに
いるのがおじいちゃんならいい
毎朝、雀に米粒をやり、
近所の幼な児と遊び、時に叱り、
不平ひとつ言わず戦地へ赴いたという
おじいちゃんがこっそりと
忍び込むなど邪道だと怒るだろうが
この千分の一粒のなか
新品の時間をもてあますように
息をひそめて、胸躍らせて、
開花を待っているのだとしたら
きれいな花びら、
きれいな種、
きれいな茎、
きれいなアブラムシ、
きれいな法則、
きれいな影、
きれいな世界を見ているわたし
それはラヴォアジエが教えたように
見失っているだけで
抱き合えないひとも生きている
失われた時間とぬくもりを包括して
有り余るほどの思い出を与えながら
わたしが蒔いたこの場所で
ピーちゃんの死骸はやがてあたたかな土になり
ポチのおしっこはやがておだやかに降り注ぐ
そういう巡りを吸い込んで
大きく陽に向かうのは
何回目の向日葵だろうか
わたしは到底知らない