ひとりと独り
殿岡秀秋

小学校で
同じクラスの子が
かたりあうのを
はなれたところからみていて
ぼくは独りでいるのに気づく
肩がさむくなり
腹が水にぬれた革のようにかたくなる

やすみ時間が
はやくおわってほしい
じゅぎょうになれば
だれもおしゃべりせずに
先生のいる黒板をみる

またやすみ時間はくる
目のはしで
なかよくはなす友をとらえると
からだはしめつけられ
いきぐるしくなり
このときこの場所から消えたくなる

先生へのあいさつがすんで
校門をでて
ひとりになると
腹の革がゆるんで
息がなめらかに喉を通る

家に帰ると母がいる
おやつを食べると庭にでて
ひとりで遊びはじめる

空想で
プロ野球の選手になるために
ユニフォームを着る
実際には青い縞模様のパジャマに
長い靴下をはいて
野球のユニフォームと
ソックスの雰囲気を作っただけだ

小さな庭に想像で
円形の大野球場を作りだす
監督はかつての名選手で
投げてきたボールが
止まって見えるとかたった人だ

チームには名選手をそろえる
ぼくには新人として
入ったばかりという役割を与える

満員の観客の歓声が高まって
試合が始まる
ぼくはベンチに控える
チャンスがきて
監督が代打を探す

試合に出たいので
にらむように監督を見つめる
ぼくをみて
監督は代打に指名する

どうしても
打とうとおもう気持ちが
湯気のようにからだから
立ちのぼるのがわかる

相手チームの投手もぼくの分身で
豪速球を投げてくる
初球のストレートを叩いて
センター前にヒットにして
一塁ベース上で
両手を空にさし上げる

狭い庭の巨大なグラウンドに
観衆の喚声が
地響きのように拡がる
ベンチにいる仲間たちの拍手も見える

小学校でみんなといるときに
ぼくは椅子におかれたまま
動かないピノキオで
庭でひとりでいるときに
信頼できる仲間がいる













自由詩 ひとりと独り Copyright 殿岡秀秋 2009-08-01 08:37:42
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