風に乗ったチョーク
遊佐



何処までも続く涯の無い青空の下に/

何処までも続く涯の無い青空の下に埋もれたまま
彼は独りぼっちで数と戯れていた
無数に飛び交う数字と記号を捕まえては空白を埋めて行き
それが正しいかどうかを確かめて記録する

報われる事の無い作業の糧は
見出すと言う喜び

誰よりも早く見つける事
誰よりも多く見つける事
それが彼への報酬

狭い路地裏に彼だけを残して
季節が足早に通り過ぎて行く
風景は幾つもの衣を脱ぎ捨てて
彼だけを風化させて行く

ささくれだった粗末な板切れとチョークで刻まれた記憶は
何時の日にか世界を抜き去ってしまった
それでも彼は
そんな事にさえ気付かずに来る日も来る日も数字を積み重ねて

解を導く

雨の日には雨粒の中に数字の行列を見て
風吹く日には葉擦れの音の中に踊る解を見る

歴史より速く歩いた彼の背中を
ようやく見つけた時(世界)が呟いた

インドには
世界一足の速い数学の神様が居て
一人の貧しい青年の頭に住み着いた
いつの間にか彼は
誰よりも速く歩くことを覚え
そして風になったと、
賢き人は言う
神様には誰も追いつけはしない、と。





自由詩 風に乗ったチョーク Copyright 遊佐 2009-07-31 21:09:26
notebook Home