風に乗ったチョーク
遊佐
何処までも続く涯の無い青空の下に/
何処までも続く涯の無い青空の下に埋もれたまま
彼は独りぼっちで数と戯れていた
無数に飛び交う数字と記号を捕まえては空白を埋めて行き
それが正しいかどうかを確かめて記録する
報われる事の無い作業の糧は
見出すと言う喜び
誰よりも早く見つける事
誰よりも多く見つける事
それが彼への報酬
狭い路地裏に彼だけを残して
季節が足早に通り過ぎて行く
風景は幾つもの衣を脱ぎ捨てて
彼だけを風化させて行く
ささくれだった粗末な板切れとチョークで刻まれた記憶は
何時の日にか世界を抜き去ってしまった
それでも彼は
そんな事にさえ気付かずに来る日も来る日も数字を積み重ねて
解を導く
雨の日には雨粒の中に数字の行列を見て
風吹く日には葉擦れの音の中に踊る解を見る
歴史より速く歩いた彼の背中を
ようやく見つけた時(世界)が呟いた
インドには
世界一足の速い数学の神様が居て
一人の貧しい青年の頭に住み着いた
いつの間にか彼は
誰よりも速く歩くことを覚え
そして風になったと、
賢き人は言う
神様には誰も追いつけはしない、と。