回転する世界+忘却
熊野とろろ


地球儀を回転させまして
わたしは20世紀を忘れました

太平洋がひたすら鼻につきました
なのでイタリアのブーツを履いて
試みに外に飛び出してみたのです

残念なことにこの通りはローマに続きません
日雇い労働者が集うコインランドリーに辿り着くのみです
駅前の交差点で何百人もの青ざめた顔を見たとき
わたしは自分の名前も思い出せなくなりました

死人のデモ行進に参加しているのです
回転する地球儀の上で
わたしたちは三半規管が揺れているのです
ずうっとまえにもこんなことがあったような気がします
わたしはことごとくを思い出せずにいました

低い石垣に坐る猫背の浮浪者の
口唇から魂が飛び出しそうになっております
信号が青に変わりばたばたと人が倒れていきます
老人は幾重にも重なる掌のしわを青春と呼びました
青春がいつやら校長先生の朝の挨拶に刷新されます
三大詩人もホルモン注射を欠かせなくなりました

集団的安心などわたしは欲しくありません
地球儀を回転させまして
わたしが世界を揺るがします
みなも揺れてしまえば良い
混乱してしまえば良いのだと
わたしの心の中心には拭えない禍々しい日々がありました



自由詩 回転する世界+忘却 Copyright 熊野とろろ 2009-07-31 11:20:15
notebook Home