蝉——制圧されしある夏のこと
新崎

彼は一人きりで土の中で六年待ちました 
生まれた時、彼は目が見えませんでした
目が見えるようになったのは彼が五歳の時
暗い土の中で、何も見えませんでした
それから今まで何も変わりません

彼は外に出たい一心で六年待ちました
父も母も、全く記憶にありません けれど
暖かかった地上のことを彼は覚えています
土の中にいるわけでもないのに何故か
体がなんだかとても暖かったのです 

彼は楽園のような地上を想って六年待ちました
女の子というものを彼は見たこともありません
甘く切ない恋をしてみたいとずっと思っていました
彼は父親、母親のことを全く知りません けれど
二人の愛の故に僕は生まれたんだ、と思いました

彼はいよいよ地上に出る時が来たのです!
彼は地上に向かって土をかきわけていきます
がん なんだか固いもので塞がれています
必死に出口を探しますが、どこも塞がれています
そのうち、彼は疲れて眠るように死んでしまいました


自由詩 蝉——制圧されしある夏のこと Copyright 新崎 2009-07-31 08:22:51
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