愛とは
吉田ぐんじょう
・
愛してる
と誰かが呟いたので
ふと思った
愛とは する ものなんだろうか
だとしたら
動詞なんだろうか
いやそれとも形容詞かな
調べてみたけれど
動詞とも
助動詞とも
形容詞とも
名詞とも
なんとも書いていないから
ますますわからなくなってしまう
花が咲くみたいなもんだろうか
それともお砂糖に似ているか知ら
深夜の台所でいろいろ想像する
愛してる
と呟いたひとの名前は
どうしても
思い出せない
・
アルバイトの面接へ行くことになった
履歴書を持ってくるよう言われたので
ひとつひとつの欄を
ゲルインキのボールペンで丁寧に記入してゆく
資格の欄が少し寂しかったので
恋愛マスター準一級
と書いておいた
翌日
履歴書を見た面接官は
少し黙って
恋愛マスターって何ですか
とようやくそれだけ訊いてきた
恋愛のなんたるかを学ぶ資格です
一級になると恋愛に悩む女の子に
的確なアドヴァイスを与えられます
超すごい資格ですよ
まあ恋愛マスターを取得する会には
わたし一人しかいませんけど
と
成るべくはきはきと明るく答えた
面接は五分とたたずに終了し
引き攣った微笑みを浮かべた面接官に見送られ
電車に揺られて帰ってきた
その翌日
不採用の通知が速達で届いた
何がいけなかったのだろう
やっぱり 超 がまずかったのかな
・
君がしあわせならばよいのだ
わたしではなくほかの女と一緒にいたって
笑ってさえいればよいのだ
地球がかちりと割れてしまっても
君だけは生き残っていて欲しい
わたしが死んで腐り果てても
君だけは永遠に死なないでほしい
孵化してゆく感情
これが愛というものですか
それなら愛って
なんて憎しみに似ているんだろう
苦しむ顔が
見たいよ