・∞00〇◯00時◯〇00∞・
板谷みきょう

くじけた気持ちが満ちてくるのは
自分が気難しいせいだ。

軟化した脳で考えさせ
萎えた手で持つこと

折れた足で立つこと
遠くなった耳に聴かせる
衰えることを許さないかのように
若さを保たせることが素晴らしいと。

満足に話せない言えない口となったことを
知ってか知らずか
くどくどとうわ言のように
繰り返し呟き囁かれる言葉に
訳知り顔で愛想良く相槌を打ちながら
ゆるやかに流れる時を惜しむことも
許すことなく急き立てる

健康でありたいという願いに便乗しながら
無意識に伝えている笑顔には
老いて往く姿を醜いことだと
人生を管理しようとする慢心が
見え隠れする

それぞれが生きる速さの違うことを
頭で理解はしているが
心では認めないそのさま

底が見えるような瞳と
白く濁った眼球で
短い先を見詰めながら
息も絶え絶えにして
肩を波打たせ
口角に泡さえ浮かべているのに
衰えた足腰に
鞭を打つ如く歩みを進めているのに
それでも遅いと言うのか

千切った縫い目のほつれた糸を
いとおしむような行為を繰り返す老婆らと
生まれては打ち消される面影を
いさおしく固く握り締める老人たちに
舌のひび割れのような意味を押し付ける

託されていることと任せられたことを
免罪符に誇らしげに
年老いることを許さない決意を抱き
忘れていることさえ忘れた姿を軽蔑している

食事も排泄も時間で区切ることを
最良の環境だとでも言うのだろうか

独りで逝ってしまった人たちと
別れて残り尚、生き続ける人たちが
ささやかな幸せを独り呟きながら
室内灯のともる閉ざされた廊下を
雲の中を抜けて来たからこそ
痩せた記憶を恋しがるかのように
空をまさぐりながら彷徨う

頑丈に施錠され
開かれる事はないその扉の向うは
家路に続く郊外へと続いているはずなのに

夜中に久し振りに発ち帰ったその場所で
くじけた気持ちが満ちてくるのは
自分が気難しいせいだ。


自由詩 ・∞00〇◯00時◯〇00∞・ Copyright 板谷みきょう 2009-07-30 14:19:46
notebook Home 戻る