パノプティコン
atsuchan69
淫らに、露出した仮想の小窓には
時と場所の不明な青空と、
見えざる航空機による白い猛毒の軌跡――
ながく留まる筋雲状の航跡が表示されていた
≫いわゆる、薬物や病原菌等の散布。
僕たちはいつか死ななければならなかったが、
陰謀論そのものがデマゴギーの流布だと説明され
≫気象兵器や、その他の空想話よりは
≫寧ろ隣国の脅威について心配すべきなのだ
そしてやはり戦うべきなのだと、
信頼すべきメディアは一貫して日々書き立てた
≫修正パッチじたいが、スパイウエアに他ならない
≫膨大なリファラをログすることによって
≫個人の嗜好はすべて解析される
≫所詮、ユーザーとは監獄の囚人に等しい。
政治、経済、文化そのものが
子供じみたダミーの錯覚装置であったが
果たして僕たちは執行人の顔を知ることもなく
ただ完全なオートメーションによって
いつかきっと死ななければならなかった
≫鳩山氏は新潟市内で街頭演説を行い
≫「歴史の歯車を動かし、
≫官僚任せの政治ではない、
≫国民が一つ一つの政策に携わることができる
≫新しい政権を作ろう」と気勢を上げた。
――それでも僕たちは
たぶん、馬鹿ではなかった――
追い詰められた心の窓から垣間見たのは
凍てつくような暗い月の裏側で
滑らかな灰色の岩陰に残された二体の、
漆黒の夜に晒された巨大な躯だった
無惨な死を遂げた神人と、
おそらく壮絶な戦いだったにちがいない
不吉な匂いのする羽毛を散らし、
破れた片翼を大きくひろげた
鋭い嘴のある猛悪な顔の禽獣の屍骸を・・・・
ある日、ことばではない
イメージの伝達がふと、交わされる
それは通常の会話とは全く異なる手段だった
君と、眼と眼が合ったときから
突然、心が繋がると
囁くような君の声が素直に理解できた
僕たちは、けして少数ではなかった
今はもう、仮想の小窓を見ることもなく
世界中の新しい仲間たちと、
夢ではない脱獄の日に備えて
24時間、リアルタイムで繋がっている