回転芝居
薬指
くるくる回る青い眼の操り人形
甘い甘い甘過ぎるお菓子をどうぞ
子供を見つけては風船を渡している背の高い紳士
誰よりも腕の筋肉が太い男
春の鳥によく似た声で歌う女
音楽だけが聴こえてきて
さあ
楽団はどこだろう
門の前は長い長い行列
そろそろ並びに立たないと
母さんが不機嫌になってしまうよ
自動車よりも大きなアロワナが
水没した街を泳いでいる
彼の寝床はね
むかし僕の大好きな庭があったところなんだ
おばさんは何も悪いことをしていないのに
羽虫に変えられて不満そう
ここはとても居心地がいいけれど
いつか必ず追い出されてしまうだろう
さあ今夜も
回転芝居が始まるよ
枕を放り投げてチケットを買いに来な
本当を嘘に嘘を本当にしてあげよう
そんなことあるわけないって
きみは大きな声で言うけれど
月が滑り落ちるまでには
きっと気付いているはずさ
そうに違いないって
まるで反対のことを言って帰ろうとしないはずさ
知らないうちに太陽が待っていても
ぐるぐるぐるぐる
回転芝居
始めるだけなら
父さんに作り笑いをして喜ばせてあげるぐらい簡単だね
けれど終わらせる方法はとても限られているんだ
たとえばね
ベッドの上で指を絡める
日差しに目を眩ませて倒れる
助かると知っていて高い所から飛び降りる
お気に入りのリボンで自分の首を締め上げる
泣きながら知らない人の名前を叫ぶ
残りはきみの
知らない人が知っているよ
今日のショーは格別だね
格別さ
ごらん
風変わりな演劇をやっているよ
見ることも聴くことも禁じられた青年が
それでも彼女を抱きたいって
暗闇の世界をさまよっているのさ
何も見えず
何も聴こえない
世界は終わってしまったのかもしれないけれど
それさえもわからない
鼻の奥に残った
彼女の長い髪の匂い
足首に落ちて行くストッキングの手触り
彼女は
どこか遠くへ行ってしまった
青年の手に触れるのは
柔らかな蜘蛛の巣ばかり
そうに違いないって
やっぱりきみは言い出した
回転芝居はきみの故郷だ
二度と帰れない悲しい家だ
なんとか誤魔化して居座るがいいよ
思い出すんだ
空を横切って行くインド象の群れ
母さんの中で聴いたあの歌
蝉にそっくりの奇妙な声で歌っているあの女はね
喉の奥に真珠を埋めているんだって
鞭をもてあそんでいる猛獣使いは
むかし虎に片方の耳を食いちぎられて
胸の奥がまだ恐怖で震えているんだって
いつか僕にも傷ができるかな
月はみるみる地面に迫ってくる
僕たち回転芝居の一座は東へ逃げるだろう
君は街の隅にホテルを見つけたけれど
いつまでもそこにいちゃいけない
どんなエンジンも動かせる
魔法の鍵をあげよう
僕たちについておいで
旅に出よう
会う人すべてが孤独だろう
すべての家は僕たちを憎むだろう
いつか一番高いあの塔が
月面に押し潰されたとき
僕があの歌を聴かせてあげる
黒猫はみんな空を飛べる
魚たちは絶望をやり過ごす術を知っている
聴こえるだろう
夜空を飛ぶ白い蝶の
終わることのない歌声が