たまねぎ
かんな
プラスチックの板に
七センチの穴が空いていて
父にそれを手渡されて
手伝いがはじまった
実家での農作業は
ずいぶんと久しぶりで
この蒸し上がった季節に
汗の一つもたらそうかという
気まぐれだった
たまねぎだった
七センチの穴を通るものと
通らないものにわけていく作業
それだけ
それだけを
黙々と、時おりラジオに耳を傾け
たまねぎを選別しつづけた
ふと思考が飛ぶ
こうやって
一つ一つのたまねぎという
いのちを育てる父の手で
同じ手で育てられたわたしという
いのちもまた
この大地にしっかりと根ざした
尊いものなのか
なんて
たまねぎだった
七センチの穴を通ってしまうものは
はじかれる
通らずに穴にはまったのだけが
エリートとして東大にいくんさ
父が冗談まじりに言うので
東大っていっても、スーパーだし
結局、食べるのは人間でしょ
とつい私が言ってしまう
たまねぎのしあわせってなんだろうと
思考が跳ねる
きっと
たまねぎの心情には
関係のないところで
わたしの選別はすすんでいる
こうしてついた土を払って撫でてやる
そうやってみれば
気まぐれに
たまねぎを慈しむ
わたしがいるだけで
夏らしい陽がさして
ひたいに汗がにじみはじめると
肩や腰に
やんわりとした傷みもはしる
幼い頃は
毎日農作業をする父の姿をみてきた
いつからか
実家から
父から目を背けて
見失ったものがあったかもしれない
目に落ちる汗をぬぐう
それはきっと
このたまねぎだ