雨2ー八木重吉の雨によせてー
……とある蛙

雨は降っているのだが
戸の外には何も聞こえない
雨の音も聞こえない
雨は降っているのだが

雨の音が話し声を吸い込む
雨の音が足音を吸い込む
雨の音が溜息を吸い込む
雨の音が泣き声を吸い込む
雨の音は雨音を吸い込む


雨の音は聞こえない
雨が煙っているのだ
雨の音が聞こえない
雨が煙っているのだ


雨の音は聞こえないが
煙っている雨の先には道が一本見える
景色に色はあるはずなのだが色が見えず
モノクロームの無声映画のように
静かだ。

その道には人が行き来して
その道の先にはまた道がある
その道の先は雨に煙っていて
何も見えない。

煙っている雨の先には道が一本見える
その道には痩せ犬が一匹行き来して
雨はすべてを煙らせて
行き先の先を煙らせる。
道の脇にある木々は
雨に煙って霞んでいる

モノクロームの無声映画のように
静かだ。
雨の音が聞こえない
雨は降っているのに
雨の音が聞こえない
雨は降っているのに

あがらない雨が降っている。
だから僕らは生き続ける。



自由詩 雨2ー八木重吉の雨によせてー Copyright ……とある蛙 2009-07-26 17:48:25
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