空に還ったものに捧ぐ
あ。

わたしが生まれるよりうんと昔に
他界してしまった母方の祖父は
実直で陽気なひとだったと言う


わたしが高校の制服に袖を通して間もなく
他界してしまった母方の祖母は
大変に気の強いひとだったと言う


比較的戦火を免れた京都の街の片隅で
ひっそりと小さな料理店を営み
母を含めた子ども六人を育てた祖父母は
大の動物好きで、ひときわ犬には目がなく
その影響か家族みんなで動物好きであったが
飲食店を経営しているために飼う事は出来ず



そんなことを無視して迷い犬を店に連れて行ったのが
同じく犬に目がなく、しかし自分の家では飼えない
当時母の恋人であり後にわたしの父親となる青年で


連れて来た迷い犬をむげにも出来ず
結局祖父母は共に暮らすことになる


犬はたちまち店のアイドルとなった
飲食店に動物を、などど言うものはひとりもいなかった
常連客に可愛がられ、食べ物をたっぷりと与えられ
丸々と太り大きくなり、愛想良く尻尾を振っていた


それから間もなく
ある客によって犬は連れ去られてしまう


常連客でもなく、誰と言う特定も出来ず
祖父母はなくなく諦めたと言う



わたしは祖父の顔を知らない
祖母との思い出も多くはない



それでもよく覚えているのは
わたしの家で犬を飼うことになったとき
誰よりも可愛がり膝に乗せていた後ろ姿
孫のわたしたちも幾度となく味わった
愛情を惜しみなく含むしわの深い手のひら



うちで飼っていた犬が空へ還って一年になる
祖母と会えているのだろうか
わたしも会ったことがない祖父はきっと
祖母と一緒にいるはずだから
同じく動物好きなひとだと言うから
あの子を大事に可愛がってくれているのだろう


自由詩 空に還ったものに捧ぐ Copyright あ。 2009-07-26 11:04:08
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