蝉としゃれこうべの朝
A道化
朝
目を開けなくとも蝉が鳴いている
目を開けなくともあなたの部屋にわたしがいる
けれど、目を開けて
眠るこの部屋のあなたを確かめる
蝉が蝉が鳴いている、ああ、夏なのだ
翅の摩擦熱が夏に加わって、灼熱、だ
その中、蝉の蝉の轟音に圧されて
しん
と眠るあなたに、ふと、しゃれこうべを見る
蝉と夏が濃く濃く高くなるにつれ
しゃれこうべはカルシウムを白く枯らせて、しん、と眠る
その歯の配列で、しん、と白く無機質に笑っている
それでいてその眼窩で黒く黒く深く悲しんでいる
ひどく白くてひどく黒いあなたに、わたしはつられ
しん、と泣き笑う
ああ、死ぬのだね、あなた、
そしてわたしももうすぐ死ぬのだね、どうしようもないね、
けれども、それから百年後に、
私たちは百年前のひとつの夜のことを覚え合えているかしら、
けれどそれよりもいまのこと、今、今、今あなたが好きなん、
目を開けなくともあなたがわたしがここにいる
そのことを確かめる為にあなたにくちびるをつけてこのまま
ああぬくい皮膚だ、そのどこかにくちびるをつけてこのまま
ねえ、百年以上眠りたい
ひとつの朝
2009.7.26