白い呼吸
ゆたんぽ
柔らかくぼんやりとした呼吸を感じる
輪郭の中に窮屈に詰め込まれた光にも
つかむことのできない流れの中の光にも
君と呼ばれた生き物を生み出すことはできない
Hello‐Hello
聞こえていますか?繋がっていますか?
さまざまな場所で君に出会いました。
僕の呼びかけに気付かないまま、桜の、今にも吹き出しそうな桜の蕾の中で
小さな吐息に身体をくるませて眠っていたことも。
いつまでも、あの頃と呼ばれる思い出の中で
茜色に溶けて、哀愁を漂わせていたことも。
たくさんの出会いを、僕は、今でも覚えています。
田園にも、カレーにも、チョコボールにも、
君を見つける度に、悲しくて、楽しくて
無性に、君を描きたくなります。
突然、君の呼吸を忘れる
忘れていることさえ、忘れてしまって
田園にも、カレーにも、チョコボールにも、桜にも、思い出にも
君を探すことはない
優しさっていう瞳の深さは
干上がるほど浅く
ざわざわした瞳が睨みをきかして尖っている
忙しない時間なんて筆を折る理由にはならないことを
本当は、どこがで知っている
エゴの枝先に
花が咲くのを待っている
いつまでも生まれるはずのない
君を待っている
愛なんて呼ばれながら
圧倒的な景色の中で君と邂逅する
湧き上がる記憶からたくさんの水が流れ込んで
瞳に注がれて
小さな海の中で君を
君の大きな海を見つめる
回遊する白い呼吸
君は生み出されることなく
ずっと昔から、生きて呼吸している
Hello‐Hello
聞こえていますか?繋がっていますか?
いくつも君を描いてきました。
暗闇の中で真っ暗でも描いたこともありました。
光の中で眩しくて描けないこともありました。
今でも、君を描いています。
ベッドの上でくしゃくしゃになった君を思います。
柿の枝にぶら下がった君を思います。
ホワイトシチューのニンジンにしがみついた君を思います。
満開になった桜でまだ寝ている君を思います。
小説の段落に腰を下ろしている君を思います。
思い出のいつまでも溶けきらない君を思います。
僕は君の呼吸をどうにか忘れないように
数え切れないほどの君を思っています。
Hello‐Hello
聞こえていますか?繋がっていますか?
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