パチパチ
瀬崎 虎彦

パチパチと散る
砕け散る
線香花火
それよりも
音無く夜に
消えていく
無音の夜に
消えていく
悲しい人の
戯言と
可愛い人の
独り言

パチパチ空は
水溜り
水音高く
土穿つ
梅雨はとっくに
明けたとさ
明けたと聞いて
また来たさ

パチパチ二人
瞬きを
何度も強く
繰り返し
抱きしめあって
繰り返し
呪詛するように
キスをする
それでも二人
いつの日か
別れるもまた
運命と
割り切るならば
その腕を
絡ませあって
夜の淵

パチパチ一人
白樺の
小枝を踏んで
歩きます
二人で行った
高原の
一人で帰る
帰り道
人は一人で
生きられぬ
しかし二人で
生きるのも
なかなか辛う
ございます
なかなかきつう
ございます

パチパチいつも
ありがとう
騙してくれて
ありがとう
殴ってくれて
ありがとう
生まれて生きて
今日の日を
迎えて今は
満足だ
死ぬのがずっと
怖かった
だけど今なら
怖くない
パチパチいつも
ありがとう
この世に生きて
死にました
ただそれだけの
生でした
誰しもそうで
ございます
生きては死んで
それだけで
つとめは疾うに
済んでいる

パチパチ今日は
ありがとう
選んでくれて
ありがとう


自由詩 パチパチ Copyright 瀬崎 虎彦 2009-07-26 00:07:26
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