深緑
たちばなまこと

あの丘には海がある
風にとけたあなたが ささやいていった
赤い自転車から 深緑の海を見上げる
深緑の糸かせから 糸の先を手繰りよせる

右腕に 螺旋を描いてゆく海の糸
ひんやりと
深緑の濃淡を からだに滲ませながら
私は海となる
篝火を焚いて 赤い自転車で
海から海へと
霞む街並みは流動しながら
自転車の うしろには 誰も いない
けれど
新しさと懐かしさを揺らめかせ

海たちは幹を下ろし
聖なる丘から 人々の営みを見つめている
赤い自転車と 海に習い
聖なる蹟から 熱を見つける
Tシャツが海に染まるまで
もう少し あなたと共に
自転車の うしろには 誰も いない
けれど
あなたのメモにつづきそえる
白いワインをうしろにのせて
一緒に
あの子を迎えにゆこう

緑は息をするたびに 深く
みずみずしく
おんなのように
横たわり まねき寄せ 唇を動かして
いずれ見る 母のしぐさを秘めながら
幹から水を汲み上げている
地に戻った赤い自転車と
風を切りながら
丘に茂る丸い海に 焦がれていた



自由詩 深緑 Copyright たちばなまこと 2009-07-25 21:28:52
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