日食に月を見よう
小池房枝

見えないものを見る機会は少ない
だから
日食を見よう

あれはつまり見えるはずのない昼間の月
太陽と同じような大きさのふりして
ときどき
青い空に白く浮かんでいたりするやつ

ほんとうは
地球から見て太陽の手前にあるんだよ
明け方の糸のように細い形から
月齢をリセットして
夕方の三日月にかわる狭間の新月

見えなくなっても月はそこにあることの
日食はその確かな証だ

いつもなら
受け止めるものも投げかける相手もなく
無為に宇宙空間に伸びている月という大きなボールの影を
今回は地球が受け止める

地球の
他のどの場所でもない君が/あなたがいる場所が
受け止める

立って/座って/寝転んで歩きながら空を見上げながら
地球の上の自分と
月と
太陽との
一直線を思い浮かべてみるといい

太陽の欠けた部分
大きな魚や
魔神にかじられるのだというその部分を指差して
ほら
あそこに月があると

自分がきちんと
例えばサロス周期や
昇交点や降交点の文字通り綾なす宇宙の中にいることを
考えきれなくても感じてみるといい

日食に巡り合せるというのは
つまりそういうことだ

天体望遠鏡や電子顕微鏡やテレビ
インターネットや you tube
見えないものを見る機械はたくさんある

だけど見えないものを見る機会は少ない
だから日食を見よう

もし雲に阻まれて雨に降られても
それこそ想像してみるといい
地球と自分と雲と月と太陽が仲良く並んでみているところを


自由詩 日食に月を見よう Copyright 小池房枝 2009-07-20 22:29:31
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