見慣れた路傍の横顔を見た
熊野とろろ


どうしたことか
僕は立ち止まり周囲を見渡した
ひっそりとした青の空間
生温い生命が近くで息づくのを察知した

ここはずっと前にも来た場所だ
その瞬間、絶望に落っこちそうな気持ちが
決まって胎児の頃のような安息に変わるのを知る

予定調和なのだ
感覚自体がとても予定調和である
意識はめまぐるしく行き来するというのに
嗚呼、すべてが音もなく崩れる!

僕たちが話し、交えたこと
そのなかのいくつだけが
手足が生え、歩き出したというのだろう
「戻ってこい、戻ってこいよ!」
どこまで行っても叫びは続くようだ

不意に草の葉で手を切ってしまった
赤く流れる血が早く瘡蓋になればいい
瘡蓋に溜まった膿みを押し出してやる

そこから
傍観が終わればいい
僕の膿みとこの青の空間は
深く関係しているの?

「愛情を知りなさい」
僕は息を大きく吸い
立ち尽くすことをまだやめようとはしなかった



自由詩 見慣れた路傍の横顔を見た Copyright 熊野とろろ 2009-07-20 16:29:55
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