灼熱の季節
熊野とろろ


心は死んで あいつは
墓の中で薄れながら しんなり笑っていた
電車は定時にきっかり訪れ
我々の事情も知らぬまま また
また 繰り返す
毒を盛ることなどや ほか 様々なこと
を 試みに 繰り返す

三年前のこの季節を当分は思い返す
なぜならおれはこの季節が孕んでいる真実の灼熱に
焦がされた一人なのだから
真実の灼熱 それは一体何か?
ふとしたことでおれの足は止まった
じり、じり じわ、じわ
何ものかにおれは染め上げられていくのを感じた

それからどれだけの時間が過ぎたのだろうか
おれの足は一歩も前へ踏み出せずにいたのだ
日々増幅していく この 苛立ち
苛立ちの粒子よ
どうしておれはひとを殺せようか
この 愚かで 恥そのものの
しかしどうすることもできない 苛立ち
これによっておれはひとを殺すかもしれないのだ

街がまさに燃えている
静かにおれは唾を飲み
灼熱の記憶を遠く遠く押しやり
さようなら さようならと
不確かなまま繰り返していた

故郷の海の香り 潮の香りよ
新緑の木々よ 沈黙の森よ
聖なる滝よ その不動の歴史よ
見えざる自然よ 大いなる全て
所詮は流れ消えゆく雲のように
おれに何も与えてくれなかったじゃないか

さようなら 唾が溜まり
さようなら 吐き出すほかない



自由詩 灼熱の季節 Copyright 熊野とろろ 2009-07-19 15:50:59
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