同化する、記憶
ku-mi

くり返し聞こえる
ずっと耳の奥
石をたたく水の音
ふうわりと浮かんだ陽炎を
あなたの肩越しで見ていた

線香の、つんとした部屋
気管がくるしいのは
意識を奪われているから
ゆるんだ浴衣の胸元に
とうめいに滴る祈りは
耳鳴りに重なって
あなたには聞こえない

うろこ雲が朱にそまって
夕暮れのおとずれを風鈴が知らせる
闇が飽和して
やがて雨となる

籠から放された黒揚羽蝶
とおくとおくまで
深い緑に還っていく
静かすぎる羽音は
闇に同化して
後追いなど、できない。


自由詩 同化する、記憶 Copyright ku-mi 2009-07-18 23:21:52
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