隔離病棟/1
遊佐



愛だ、自由だ、平和だと叫び続ける君の
其の歪んだ笑顔が堪らなく不気味だと感じ始めたのは
僕が病院へ通い始めた頃のことでした。
ミサイルをロケットだと主張して止まない北の国では、腹いっぱいになっても満足出来ない生神様が蹴飛ばしたトウモロコシさえも高嶺の花で
テレビカメラの外側には泣く事さえ忘れた子供達が、蟻のように地面を探っているらしい。
君が見たら何て言うのだろうか、なんて事を考えながら、僕は効きもしない高価な新薬を飲み、空調の整った居心地の良い部屋で掌の上の世界と戦う。
窓の外には桜の花が舞い、澄み切って彼方まで透けた空と、くるくると渦を巻き舞い上がる風のなす春と言う舞台の上で今日が厳かに過ぎて行く
それを眺める僕は魂の抜けた傍観者
心持たない人形のように、時を見過ごしている(そういう風に他人の目には映るのであろうと思う、その方が楽だ)

隔離病棟の一日は平穏で退屈なもので、僕が動かなければ
何事もなく穏やかに過ぎて行く
(暴れることも時には必要な存在証明ではあるのだが、このかけがえのない時間を無駄にはしたくないのだ)
昨日、僕はヒーローに出会いました
かくも醜い世の中に於いては神にも等しい存在として浮かび上がるものなんですね。
僕のヒーローは毎朝決まった時間に扉を開き、満面の笑顔をたたえて颯爽と
この部屋にやって来る。
彼は僕の唯一の理解者であり、どんな薬も効かない僕の病気に言葉と言う名の特効薬を与えてくれる
そしてポケットから薬を取り出して僕に与えてくれる
「これはね、まだ日本では手に入らない貴重な薬なんだ、君だけにあげるからんだからね、内緒だよ」
勿論です、僕は誰にも喋ったりはしません
貴方と僕、二人だけの秘密です
(彼は神様です、キリストよりも偉大で、御釈迦様よりも慈悲深い方です)



自由詩 隔離病棟/1 Copyright 遊佐 2009-07-18 19:37:36
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