金魚の独りごち
Leaf

「玉揺の銅鎖樋から伝いし雨水と手水鉢ちょうずばちから伝いし雨水が溜まる水甕から零れた水琴窟の琴音、それは忘れられた嘗ての祭りで誰かさんが掬ったであろう金魚の独りごち」




琴の音色に
 歩みを止め
 涼みました

玉揺の鎖樋は
 銅色に輝き
 雨水を注いでました

手水鉢は今はもう
 使われ無くなって
 腐葉土にもなれなかった落葉とか
 媚り付いていました

雨水が垂れ流された先に
 仕様が無く置き去りにされた水甕の中には
 まさに祭りの名残の虚しさが
 真紅を薄めたような、
 朱色の金魚が一匹
 泳いでいました

まるで
 世界を独り占めしたようなその姿は
 悠然と威光放つようにも見えましたが
 何処か淋しそうでした

懐古に浸る姿からして
 独りごちる声は
 人を寄せる琴音を
 奏でていました

我を忘るる私は
 玄関先にて待ち侘びた
 絶縁体になって
 しまいました

そう、
 電気や熱の伝導を拒絶した絶縁体

それで居て絶好調かい?
 との問いは
 銅製の鎖樋に伝う雨滴と
 アルカイックな玉揺の
 頽廃に消えました

受け止める陶製の甕に
 溜まった残滓の中を
 心置き無く金魚が泳いでいたのは遥か昔

其れを金魚鉢に見立てないで居てくれたなら、
 やたらエレクトリックに伝わらないように
 絶縁しましょう

雨樋の鎖千切り、
 いつぞやの手水鉢に
 清めの風景と水琴窟の音色に
 わびさびの風情を導くのでした

其れならば
 雨に沁みた寂れた心も溢す事無く、
 水甕の中の金魚の
 縷々泳ぐ姿を只管に
 観て居られるのです

そうやって
 哀も
 愛も
 藍もぜんぶ
 澄み往くのでしょう


自由詩 金魚の独りごち Copyright Leaf 2009-07-17 19:53:26
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