透明な旗
塔野夏子
世界の尖端に
詩人のようなものが引掛かっている
重いカーテンをどんなに引いても
夜の窓から三日月がはみ出してくる
夢の過剰摂取の副作用が
紫色に垂れ込めてくる
中空には透明な旗が翻る
誰かの落書きが街路を駆け回る
此処にもそう長くは居られない
昨日のことを指先はまだ憶えているけれど
背中は忘れてしまった
奇術師と道化師とが
連れ立って丘への道を歩いてゆく
蒼ざめたカタルシスの破片が
音も無くきらめきながら飛び散る
箱庭に架かる虹を盗んで
少年が七月の方へと逃げてゆく
砂時計と地球儀が
銀色の秘密を囁き交わす
さて何処へ行こう? 答えはまだ無い
あるいはいつしか失くしてしまったのかもしれない
薄緑の星雲がひとつ傍らを過ぎる
街灯がタップダンスを踊る
テーブルの上のピンクのガーベラが
誰かに似た気配でこちらを振り返る