父さんの夢
小川 葉

 
 
鞄と間違えて
父さんが
枕をかかえて会社に行く
目を閉じたまま
夢を見てるんだろう

父さんは
目を閉じたまま電車に乗り
目を閉じたまま
タイムカードを押す
目を閉じたまま
ただ待つだけの仕事なのに
夜遅くにならないと
帰ってこない

眠そうな顔をして
母さんの
冷めた手料理をチンして
食べ終えて
やっと眠りにつく

父さんが眠る顔を
見たことがある
大きく目を見開いて
黒目がせわしなく動いてる
夢を見てるのだ

現実ではない
別な世界で
枕を鞄と間違えないで
会社に行って
目を開けたまま帰ってくる
僕の知ってる父さんが

まだ夕焼けだから
裏の公園で
キャッチボールする
球を良く見るんだぞ
そう言われてうんと頷く
僕は父さんの目玉を見ている
黒くて二つある
目玉を見てもう一度
うんと頷く

父さんが目を覚ます
目を閉じたまま
目玉焼きを食べる
父の日に贈った
新しい枕をかかえてる
僕は鞄がいいと言ったのに
母さんの意見で
結局今年も枕を贈った

次の日曜は
休めそうだと話していた
だから父さん
目を閉じたままでかまわない
動物園につれてって
遊園地にも
海にも行きたい
僕のこと
夢みたいに
忘れてもいいから
 
 


自由詩 父さんの夢 Copyright 小川 葉 2009-07-17 06:10:45
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