絶滅危惧種
千波 一也



逃げ道は作るものだからね

そんなことに
労力を費やしたくはないからね
逃げ道づくりはごめんだね

あたしゃ職人には
ならないよ



罪も作るものだね

そりゃあんた
よそさまから見れば
あたしのどっかは気に入らないだろうよ

だからね
ちっちゃい罪は
作りとおしてしまうけど
でっかいものはごめんだね

末代まで残るような代物は
作らんよ



絆は結ぶものだったね

思えばあたしは
いろんなもんを切りすぎたし
切られもしたわ

こんなあたしにも
結べるものは
残っているだろうかね

残っているなら
結びたいけれどね



真心はさ
尽くすものらしいね

尽くすってのは
なくなるまで使い果たすってことだろ
果てちまったらどうすりゃいいんだろうね

尽くすのはいいけど
埋め合わせの方法がわからないから
真心を尽くすのがこわいわ
あたし



勇気ってのはしぼるもんだろ
知恵もそうだろ

おまけにさ
純度の高いものを
しぼり出さなきゃならない

でなきゃ
だれもその価値を認めないわけだろ

そんな先の知れない
手間ばっかりかかるものを
あたしが好むと思うかい

あたしゃ嫌いだね
めんどうだね



出口は見つけるものだからね

見つけたらまた
出口探しだからね

そんなの
生きてりゃずっとじゃないか

何をもとめて見つけようとするのかね
あたしゃわからんね



過ちは繰り返すものだね

何度も
何度も繰り返すものだね

なのに
だれひとり飽きもしないでさ
よく続けられるよね

あたし
見習いたいわ



愚痴はさ
こぼすもんだよ

こぼしたら
だれかに拾われるわね

どうせ拾われるなら
ありがたいもんを
こぼしたいわね

だけどさ
あたしがこぼせるものは
あんまりだわ

ひどすぎて
がっかりするわ

だからね
あたしはこぼさないの
愚痴にかぎらずだけど
愚痴なんて
見せられたものじゃないと思うのよ



罰ってのはさ与えるもんだからね

与えるなんてさ
あまりに上位な言葉だね

あたしが強気に出られる相手なんて
いないわよ

猫だって
草一本だって
皿一枚だって
命のいれものなんだもの

命に上下はないからね
あたしはだれにも
あたしはなんにも
与えられないわ



夢は追うものだってね

いま
こうして夢追うあたしは
昔のあたしには想像もつかなかっただろうなって
そんなふうに気づいたらさ
いまのあたしも
夢なんだなって

あたし
わからなくなった

だからね
やめたんじゃないけれど
少し休んでるの
夢追いを

このまま
やめてしまうかも知れないけれど



幸せをさ
築ける人がいるんだってね

作れって命じる人も
いるってね

そりゃあんた
説明書でもあればさ
あたしだって少しは取り組むけどさ

え、
幸せの完成品に
人が集まってるって
あたしはいいわ
見に行かないわ

満足しそうな気がしないし
満足してもいやだもの

あたしはいいわ
ここにいるわ



願いはきれいでなくっちゃね

ただでさえ
人に言うのは気が引けるから
汚いものならなおさら言えない

だけどね
かくまうのはあたしだからさ
あたしにふれて
汚れてしまわないだろうかって
ときどき思うのよ

だから願いを守るのよ
きれいでなくっちゃねって

あたし
願いは捨てないわ



嘘は作るものだからね

そんなことに
労力を費やしたくはないけれど
うっかり作ってしまうこともあるからね

どうせなら
うんと見映えのいい嘘をと思って
あたしついつい
嘘をついてしまうの

もちろん
末代まで残るような代物ではないけれどね













自由詩 絶滅危惧種 Copyright 千波 一也 2009-07-16 15:38:51
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