Libido/熱帯夜を抱く君の矛盾と妥協
遊佐




一つ夜を越えたなら
また新しい夜が其処にいて
また一つ越えて行かねばならず
繰り返し
繰り返し
夜を越えて行く内に
新しい年を迎え
それでも新たな夜はやって来て
満たされず
満たし切れない
埋め尽くせない夜が
何時まで続く


満たし切れない器を抱いた君は
風の無い蒸し暑い8月の室(むろ)のような熱帯夜を通年過ごす

一年中暑い夜
一年中熱いカラダを持て余し
溶けたパラフィンの海に溺れる人魚のように両足をきつく閉じ
熱を肌に押し込めたままに
自戒の淵へと深く沈んで行こうとする

セルロイドの月の下
碧眼、金髪、褐色の肌に底無しの器を懐く少年と戯れる夢を描きながらも
砂で濁った空を見上げて明日を占い
清廉と汚濁の間で
温い溜め息を吐く
身を沈めるなら深く、潔く
身を焦がすなら熱く、激しくと惑う君の耳の奥底に
遠く、密やかに声が聞こえる
温かな声が…

(幻想は甘美であれ
幻影は優雅であれ
現実は四畳半の畳の上に脱ぎ捨てて船出すれば良い
指先から罪だけ切り取って雑踏に埋めれば良い)と、

声が聞こえる
優しい声が…

(365杯のグラスを飲み干したなら
また一つ嘘を描いて気だるくやるせない日常の隅っこにでも
そっと隠して置けば良い
それで心は軽くなるのであれば)と…。

指先の真っ赤なマニキュアが一番よく知っている自らの意志を止めてはならない

熱帯に育った魚は冷たい水には住めず
凍みつく水の中にも温もりを求めるでしょう
縛られた自由が其処にあるのなら
自らの手で縄を解き放つことが魂を救うことになるのでしょう

君は女神(エロス)の子宮の中に
オンナを抱いて
眠れない夜を咀嚼して
一人寝の冷たさを自らの熱で温めて
砂漠のシーツを
潤いで満たして
300と65杯目のグラスを飲み干し

そして


また振り出しに。






自由詩 Libido/熱帯夜を抱く君の矛盾と妥協 Copyright 遊佐 2009-07-15 22:19:40
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