草刈り
たもつ
やはりカバンが良い
と男は言って
口から出した大きな舌で
炎天下の夏草を刈り始めた
確かにその場所は空地にも見えるけれど
昔、わたしが「草」
という字をたくさん書いた漢字練習帳の
ちょうど真ん中くらいなのだった
男はすべての草を刈り終えると
やはりカバンが良い、と言って
舌を真っ赤に腫らしたまま
飛べないインドカマキリのように
駅ビルから出てきた人と人の間に入って行った
カバンはおそらく
深い水底にでも忘れてきたのだろう
こうしてわたしはまた一から
「草」という字を書き始め
昔よりも下手になったものが
愛しくてたまらない