草刈り
たもつ

 
 
やはりカバンが良い
と男は言って
口から出した大きな舌で
炎天下の夏草を刈り始めた

確かにその場所は空地にも見えるけれど
昔、わたしが「草」
という字をたくさん書いた漢字練習帳の
ちょうど真ん中くらいなのだった

男はすべての草を刈り終えると
やはりカバンが良い、と言って
舌を真っ赤に腫らしたまま
飛べないインドカマキリのように
駅ビルから出てきた人と人の間に入って行った
カバンはおそらく
深い水底にでも忘れてきたのだろう

こうしてわたしはまた一から
「草」という字を書き始め
昔よりも下手になったものが
愛しくてたまらない



自由詩 草刈り Copyright たもつ 2009-07-15 19:22:48
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