ポル・ディオス
ふくだわらまんじゅうろう
フエンヒローラ!
昼定食
一皿目はガスパチョ
二皿目はチュレタ・デ・セルド
バスケットに盛られたパンの耳を残して
ポストレのエラド・ショコラテと一緒に食べる
夏
ひとりぼっち
ものすごい日差し!
それから午後は砂浜で
波のまにまに
ビキニ!
青空!
ビキニ!
黒髪の
あなたを故郷に置いてきた
俺は何をやっていたのか?
十年以上前の
夏
何処へ行くのか
何処へ行くべきか
何処へ行きたいのか
わからなくなって
探して
探して
見つけた一冊の旅行ガイドブック
と
一曲の異国の唄
それから三ヶ月、貯金しながら
スペイン語、独学
なけなしの全財産と
片言以下の異国語もって
黒髪の
あなたを故郷に
置いてきた
俺は何をやっていたのか?
その浜辺で
あるいは古し日の宮殿で
市場のバケツから逃げるエスカルゴ眺めて
宿賃、ぼられたり
ジプシーのおねえちゃんに道、訊ねたり
慣れない水に、腹、下したり
オルチャータ
ガウディの建てた尖塔の上で大泣きしたり
空きのないユースホステルに無理矢理泊めてもらったり
ヒッチハイク、断られたり
夏
俺は何をやっていたのか?
俺は
誰を愛していたのか?
地中海の波に足を取られて
泳いでいたのは俺一人だった
夏
西の果てに
ひとりぼっちで
俺は俺の運命と出身をある意味激しく呪っていたのさ
そうさ、こんな国、大嫌いだった
誰もがどうしようもなく物足りなく見えた
自分の背中には翼さえあるように思っていた
錯覚の街角に
天使たちが
お決まりの捨て台詞で勧誘していた
求める以前に求める以上を与えられた飽食のモルモット
肥大した心の肝臓を引きずって
まるで白昼のゾンビのようにスクランブル交差点を渡る
交差する
目
目
目
誰もが迷い子だ
そしてこの俺もこの西国で
誰よりもひとりぼっちの迷い子だ
気まぐれに
街の外れの古い城跡に
瓦礫のような城壁を訪ねて
海の向こうから来る
風に吹かれて
この砂色の
煉瓦の
上の
日差しに
影
焼き付けて
一皿目はガスパチョ
二皿目は仔牛のカツレツ
ドリンクはサングリア
窓辺の席で
ひとり
ポストレに何を取ろうとも
昼定食で850ペセタ
耳の聴こえない振りをした
ジプシーの乞食が
俺の
テーブルに来て「ポル・ディオス」
残りの150ペセタを施したとて
神は哀れんで救って下さるだろうか。この
異邦人を
どこにでもいて
どこにもいられない
この
異邦人を哀れんで
くださるのだろうか