原型
きりえしふみ

住処を追われた小鹿のように
今はなき原生林の幻のように
美しい残像だけを (それは一瞬閃く鱗粉のよう)
空へ 大地へ 漂わせて 去る時間は……私は
何者かによって 締め出されたのか
それとも 何者かを捨て置いたのか
命からがら逃れて来たのか

 知るべき者が 私を知らず
 読み解こうとする者に 私は連れない
 一抹の混迷

地下室へと伸びた段を一段一段 足早に降りる
と同時に同じ次元で徐に
空へ伸びた段を昇りつつも その足は此処に
在るという私 希薄な者の存在を
彼らは間近に従えながら 帯びながら 崇め纏いつつ
それに動じず 意識も出来ずに……

やがて私は彼らの周りに色濃く浮かび上がる
まるで小心者の少年が一夜にして熱弁を振るうようになった変わりようのような
烈しさで

彼らは堕ちて初めて気付くのだ
己が帯び 育てた闇の奥深さに
振り掛けた香水でちゃらに出来たと思っていた体臭のどぎつさに

 『破滅したと 思っていたのでしょう? ねぇ……』

伝説の中に息づく勇気ある若者のように
原生林の中の自然の法のように
(いいえ その戒め そのものが)


『居なくなったと 思っていたのでしょう?』

私を こんなに身近に纏いながら
その 着色し易い透明を 身に帯びながら
無意識に捉えながらも

 私を 知るべき者がそれと気付かず
 求める者の手が それに辿り着けない

(c)shifumi kirye 2009/07/14


自由詩 原型 Copyright きりえしふみ 2009-07-14 20:01:52
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