熱帯夜
あ。
少しだけ冷たいシャワーを浴びて
乾燥したタオルで頭を拭く
拭いきれない残り水はしずくになり
首筋を伝い背骨を沿って落下してゆく
つつ、つう、つう
風ひとつないこんな夜には
ちょっと汗ばむ肌が似合う
きちんと乾かさなかった髪からは
相変わらずしずくが流れているが
シャワーの名残か新たに生まれた汗か
どちらなのかはわからない
使い古してすすけてしまった皿の上に
今年最初の蚊取り線香を乗せる
近所の喫茶店の名が書かれたマッチをすり
消えないように気をつけながら火をつける
やわやわと香ばしい煙が細くのぼる
窓を開けて網戸だけにして腰掛ける
手に持ったうちわはもう随分と古く
高校生のときに授業で作ったものだ
軽くあおぐと煙も合わせて揺れる
ゆら、ゆら、ゆうらり
風ひとつないこんな夜には
汗ばむ肌と古ぼけたうちわ
揺れる懐かしい匂いが似合う