マリーノ超特急
角田寿星


あわくふくよかな海洋特急列車
が ぼくらを南へはこぶ
間断なく規則正しいマリンバのエンジン音
海に敷かれたレールをゆっくりと
エルスール エルスール エルスール

仲間は海に喰われた
肢体を折り曲げ手のひらをかるく握って
あろうことか眼を閉じたままほほえんでいた
知らない仲間だった
慟哭するひまもなかった
3日後にながれる車掌の声明まで予想できた

海は列車のあしもとから
単調だが効果的な攻撃をくりかえす

お花畑やどこまでもつづく草原を
夢みる年齢はとうにすぎてしまい
背中にべっとりと張りついてまぶしい

1時間の停車
フェードアウトするユニゾンシフト
海に囲まれたプラットホームに降りたって
沈んでしまった過去をのぞこうとした
ぼくらはもう
天気と風の話しかできなかった

ときおり海をこえて
遠雷のような地鳴りがきこえてくる
どおおん ごごごご
あれは水に浸かったビルヂングの崩落する音
きみは突然両手を太陽にかざし
みじかく イグアス!
さけぶ
しずかな

南に帰郷する車窓でそんな紀行文を読んだ
ゆっくりとはしる海洋特急は
どこまでもどこまでも海で
次の到着時刻もわからないまま
ぼくらはやがて浅いねむりにおちる


自由詩 マリーノ超特急 Copyright 角田寿星 2004-09-05 16:07:15
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