扇風機は苦い、手の平は甘い
木屋 亞万

夏が来るたびに扇風機は首を振り続ける
いつかの断り切れなかった言葉を振り切るように

ついには羽根を回す軸が歪み始めて
一人前のプロペラみたいに効果音を出している



あの夏に買ったロング缶のサイダーは
こぼした覚えもないのに僕らの手をべたつかせた

公園の水道水は生温かくて
どうしてもプールのことを思い出させた

風に乗って聞こえてくるラジオ体操の放送が
そんなときに限って耳に届いて
一緒にプールへ行きたいねと言いながら
ゴミ箱に投げた空き缶は
左に大きく逸れてしまった

ダブルボギーで空き缶を沈めて
扇風機とベッドだけが待つ部屋に向かった
洋服ダンスも、本棚も、勉強机もいたけれど
彼らはいつだって非協力的だった

深刻な食中毒が発生したのはその次の日で
結局その夏の間はプールには行けなかった
食中毒とプールに何の関係があるのかは知らない
結局、扇風機とベッドだけが慰め役を買って出た

関係について考えることが辛い夏というのは
あれ以来なかったように思う


あの時もしも僕の首の後ろにあるスイッチを
押し込む勇気があったなら
ぎこちなくでも首を振ることができただろうか

蝉の舞い上がった声を聞くたびに
喉の奥の方に苦いものが溜まってくる
それを押し流すために買ったサイダーが
相変わらず僕の手をべたつかせたけれど
それを洗い流す水道の水はとてもよく冷えていた


自由詩 扇風機は苦い、手の平は甘い Copyright 木屋 亞万 2009-07-11 01:50:21
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