つきあそび
あ。

きれいに舗装されていない夜道は
鳥目のわたしには危なっかしく
雨上がりであることも重なって
慣れた道なのにつまづいてしまう


自動販売機にコインを入れ
ミネラルウォーターのボタンを押す
がたんとした音を合図に腰を落とし
取り出し口に手を突っ込みかける


気配を感じて視線を少し斜めにすると
昼間の雨で出来たらしい水たまりに
月がひとつ、落ちていた


どうしてこんなところに落ちている?


会ったことない神様の落とし物か
自分で好きこのんで落下したのか
いやいやそんな大そうなものではなくて
ここを通学路にしている女子高生の鞄に付いた
キーホルダーか何かかも知れない


だって、こんなに小さいんだもの


手をぐんと伸ばせば触れられそうで
でも拾ってはいけないもののような気がして
きっとこの水たまりが乾く頃には
誰かが戻しておいてくれるか、それとも
自分であるべき場所へ帰るだろう


やっと取り出したミネラルウォーターは
すっかりぬるくなってしまっていた
歩きながらふたを開けて一口飲んで、つぶやく


あの月に名前をつけるの、忘れてた


自由詩 つきあそび Copyright あ。 2009-07-10 22:39:02
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