君の優しい声が鼓膜に響く
きりえしふみ
君の優しい声が鼓膜に響く
諦めよう、と 睫と睫に囲まれた風景 遮断する心づもりでいたんだ 僕は
パシャッパシャッ……乾いたシャッター音響かせて
瞳の向こう側 身を捩る動体
“あちら”は作りモノ、だと
切断しようとしていたんだ
女を男 から 引き離すように
昼から夜 を 取り上げるよう 追い立てるように
空から月 を
ビルから壁 を
指から爪 声から喉 を
引き離す ように
忘れよう、と 思っていた
小さな身内に 己 を 押し込めて 封を する
そのような様 は
鳴り出さずにはいられない 程の
音の記録を閉じ込めた
それでも歌わぬオルゴール
それでも語らぬ演説家の 行き場無き舌、檄
窮屈に 所狭しと お前ハート 何色もの感慨は
サヨウナラ の そのキスに 質素にも飾られた
ひっそり、と 静寂に結わえられた小箱の中で
押し合いへし合い 歪に のたうちながら
突破口を探していた
朝日が夜から 生まれ落ちる
穴から土竜が顔を出す 双葉から朝露が流れ落ちる
その必然で
諦めよう、と 思って いたんだ
ハイヒールが似合う足に 幼子の靴をあてがう ような
デタラメな狂気で
僕は未来(おまえ)を諦めよう、と
ああ けれども
窓から闇は 去らずにはいられない でしょう
冬は “此処”から 飛び立たずにはいられないでしょう
別れ(かなしみ)の白い群れ は 葬列 は
朝の挨拶に 塗り替えられるもの なのでしょう……なのですよ
幾らかの時期を 悪夢を その代価にして
ほら もう夕べは 通り抜けようとしている
味わうのも既にまっぴらな 僕の喉元を 胸元を
今は全く違った 新しいニュアンス が
揺れている
イヤリングとお揃いのモチーフ、ぶら下げて
君は僕に口づける キス、するんだ
最初の朝を二人で迎える為に
創られて間もない扉……未来を胸一杯に迎える為に
僕は君を 影は光 水面は空
対になるもの、を 呼び立てた
描き出した
『おはよう』
と 最初の朝 洗い立ての朝を
この胸一杯に 掻き抱く為に
(次のページに) 優しい君のキスが 今降り注がん、と
(c)shifumi kirye 2009/06/28