「愛生」(あいおい)
月乃助
水の中でしか
生きられないと
思っていた
日々
きみの
ゼリーの肌に最初に触れた せつな
素人の二人が 不器用に
一つになって
創造が始まった 夏
プールへ続く学校の
モック・オレンジの花が咲き香っていた 坂
を、息をきらせて上る
僕らの細胞分裂は、
静かに 進行し
もう、きみも僕も
失い ただ、
あらたな 夏の嬰児が生きづく
それはもう きみであり、僕のはずなのに、
別な誰か
そして 水に生きる その子は
しっかりと 目を閉じ
耳だけは ものおとに 澄ませ
水をいつか去る
夢を 見ている