回帰する海
あ。
抱えきれないほどに大きくなりたかった
青々としたたくさんの細長い波が視界を埋め尽くし
何処まで続いてるのかなんて見当も付かない
涼しい風が吹く頃には黄色く重い稲穂が頭を垂れ
やがて精米されて誰かの栄養になるのだろう
懐かしい光景だと言えるほど
緑に囲まれて育ったわけでもなく
初めて見るわと感激するほど
ビルに囲まれて育ったわけでもない
強めの風にゆうらりと身体を傾かせながら
草色の匂いをそれに乗せながら
控え目に存在を表現している姿
使われている色は決して多くなくて
その数少ない色でさえも何処か古びていて
骨董市で売られている名もない陶器みたいに
薄くほこりをかぶっているような錯覚を覚える
夏の深い空に映えている瑞々しい緑
のはずなのに
時々自転車で通り過ぎていた田んぼは
これよりうんと小さかった
それでも点在していたはずのものが
気付いたときには一つもなくなっていた
時が流れることに理由なんか無くて
この星の大きさは限られていて
きっとこれが最良の使い方なのだろう
そう思っていても、わかっていても
胸に迫るこの気持ちをどうすればいいのか
泣きたいのか笑いたいのか怒りたいのか
投げ出されたように途方にくれてしまう
果ての無いように感じるこの風景も
いつか端っこが見えるようになるのだろうか
そしたら目を背けてしまうのだろうか
わたしたちは何処から来て何処へ帰るのか
ありふれた疑問に押しつぶされそうになる
痛みを抱きしめられるだけの強さを
手を広げてもあまりある大きさを