夜光虫夜想曲
小池房枝

夜に
夜光虫の海で泳いだことがあります

そのとき
月が出ていたのかどうか

  指先を
  差し入れた瞬間にセントエルモの火

  揺さぶってみた
  舫い綱に冷たい篝り火

何に
隔てられていたわけでもなく

着替えて
出直してくるのも違う気がして

  服のまま
  海に入ると手足にぽっぽと灯し火

  湧昇に
  巻き上げられた水母たちの青光り

私は
水の中ばかりを見ていて

それで
月が出ていたのかどうか

  自分が
  陸のものだということも

  下とは別の
  上のほうの宇宙のことも


光る水が
よく光っていたことだけ憶えています



自由詩 夜光虫夜想曲 Copyright 小池房枝 2004-09-04 23:18:44
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