0か、○か
木屋 亞万
人間であることに嫌気がさしたときに
自分の中身が本当に空っぽであることに気付く
宇宙の真空に浮かぶ、船に穴が開いたならば
空っぽの宇宙船の中身は、真空に吸われていくのさ
0が汚いと言われたあの頃に、僕の鉛筆は
6も0も同じように描くことができた
先生はそれが0でも6でもないと、○をくれなかった
狂ってしまったときに、それはつまり僕の自我が器から零れ落ちたときに
蛇行する身体の重みを受けて、僕の身体の変わりに傷ついてくれる女が欲しい
そんな女いやしない、
もし、いたとしても僕の自我はそんな女が嫌いだから
自我が器にある間はそんな女近づけやしない、
やはり僕の器が割れていくことは避けられない
0が満ちも欠けもしないほどに何かを失っていたとしても、
僕が0よりも何かを持っているようには思えないんだ
そもそも僕は0でない人間を見たことがないや
リセットボタンを何度押したところで、増えも減りもしない
君がいくら7に近づいたと思っていたとしても
それは6に限りなく近い0なんだ
悪いのは紛らわしい鉛粒の跡、ろくでもない君の0さ
あの日、宇宙を目指して浮遊していた僕の、
鉛筆を握り締めていた僕の、小さな宇宙船に穴を開けたのは
先生の先端、大きな赤いペンの先端、で
僕の小さな船を穴だらけにしてしまったんだ
心から吸い出されて、船外に浮遊している自我は
宇宙の塵に紛れてしまった、宇宙の中に溶け込んでしまった
先生の○になんて、何の価値もなかったのだけれど、
あの頃の先生の気圧は、僕らの心を押しつぶすには十分だったんだ
紆余曲折、七転八倒、無我夢中、気付けばこの世は0だらけ、
道行く人は0に感染してしまっている
かけても割っても足しても引いても、0は0にしかならない、
0がいくつ並んだところで、その頭に1がなければ
君たちが好きな、価値というのは得られないということになる
0まみれの僕たちは、一つになる幻想をみて
本能的にくっつき合う、何度も身体を打ち付け合って、
疲れ果てて眠りにつく、その刹那、∞になれた夢をみるのだ
僕らはどうあがいても人間で、
どうしようもなく0だけれど、
だからこそ見る夢があって、
0に救われるときだってあるんだ
そう信じていたい