問えぬひと
恋月 ぴの

父が亡くなっても泣かなかったくせして
MJの死にはわんわんと泣いた

そんなものだよね

近くて遠い悲しみと
遠くても近くに感じられる悲しみ

人生のアルバムから今まで生きてきた記録が消去(delete)されていて
ぽっかり空いた暗闇がひゅうひゅう唸っていた

だからって総てが変わってしまった訳ではなくて
わたしは永遠にわたしのままだから
うっかり寝過ごしたにしても勤め先には行かなければならない

何故って?、食べるために決まってるじゃん

あの頃ってスケボーに乗った男の子と付き合っていた
ストリートキッズ気取っていたし
ムーンウォークの真似事なんかしておどけてた

遠くから壁打ちテニスの音響いてきて
今ごろの季節にはめずらしく光り輝く満月とか仰ぎみる

新婚旅行はやっぱベガスかな
で、大もうけしたら茅ヶ崎とか海辺のコンドミニアム買ったりしてさ

たわいもない夢で模った幼すぎるプロポーズにも笑顔で頷ける幸せがあった

それなのに二人で飼っていたビーグル犬の写真見あたらなくて
これって単なる記憶違いだったのか

今年の六月十九日も三鷹の禅林寺を訪れることは無かったし
これからも訪れることは無いような気がする

それでも遠くて近い悲しみに溺れられるうちは幸せと言えるのかも知れなくて


本棚から探し出したMJのアルバムにお線香なんかあげてみた


自由詩 問えぬひと Copyright 恋月 ぴの 2009-06-30 19:55:45
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