真空林檎についての考察
within
この部屋の光の具合もあるだろうが 其の皮は重く
赤みは幾分黒ずんでいるように見受けられる
産毛のようなものが軸の窪みのあたりに白くうっすらと生えている
以上からしても 其の林檎は若々しい酸味よりも熟した甘みと
張りのない果肉が秘められていると予想される
今まで手に取られることなく選ばれなかったことによる完熟を もしくは老いを
迎えているのである
私が口にしてしまった若き林檎の実存は たしかに私の記憶に留まっているが
目の前の真空林檎に関しては 想像することによってのみにしか
その内実に触れることはできない
果たしてその重みはいかほどのものであるのか?
その赤い表皮の向こう側に詰まっている果肉の密度はどれほどのものなのか?
私の頭の中にあるイメージによってしか推し量ることができない
目の前にはその林檎はないのだから 齧りついたときの歯触りさえも
真空林檎は語ってくれない
しかし 永遠に存在しないが 真空林檎の実存が否定されているわけではない
たしかに私が見つけ出し わたしの中にイメージがあるのだから
真空林檎は 語られるのを 待っている
そして 頬張られるのか それともこのまま腐りゆくのか
それは あなた次第である
あなたの想像力という手が 真空林檎を掴みさえすれば
全ては 思いのままに