ブダペスト
本木はじめ

こんなにも美しい街なのに
息苦しい
中世の甲冑に身を包んだ兵士たちの
巨大なブロンズ像の元を歩きながら
高い空がどこまでも遠く感じられる
家に帰りたい
家に帰りたい
いったい僕はどう報いればいいのか
失われた出会いに
セーチェーニ鎖橋の上を歩きながら
より低いところへと流れ行く河を見下ろす
いつかは同じところでみなひとつの大きなうねりを生み
ぶつかり合い漂い同じ時間を共有するのだろう
たくさんの人の流れにのまれ波をかき分け
階段を上り階段を下り
辿り着いたブダペスト東駅で
オリエント急行に乗る瞬間
ふいに聞こえる
「わたしたちを忘れないで」
が、いつまでも列車について来る
僕は僕の通ってきた道しか知らない
車内に置き忘れられた荷物
こんな旅になることははじめからわかっていたはずなのに
後へ後へと過ぎ去ってゆく窓の外の風景たちが
もういちど呼び掛ける
「わたしたちを忘れないで」と


自由詩 ブダペスト Copyright 本木はじめ 2004-09-04 02:56:41
notebook Home 戻る  過去 未来