故郷の山
葉leaf

ふもとに自転車を止める
自転車ももはや山の木のように生えている
僕は山の記憶の泡に洗われ始める
かつてこの場所も辺境だったのだろう
山は人とは無関係な体系を
今も変わらず維持している

山道を登る
高さが低さに替わっていく
その境目に僕がいる
名も知らぬ木々が
僕の心に葉を差し入れてきて
美しい形を残して去ってゆく
隠れている動物たちの
食欲の真摯さが横切ってゆく
その五秒前に
山の光の酸っぱさに気づいていた

植物は写実的過ぎて
僕の眼が追いつかない
鳥の声は楽譜に書けなくて
何かを信仰するための影で満ちている
土肌が開けた場所から
歩行の正しさを問いかけられる
僕の正しさも

視界が開けて頂上に出る
風の源を探してみる
社殿の裏の空き地では
高校生の僕が死んでいた
溌剌と
記憶が殺したのだ
ベンチに仰向けになると
風景は空に満たされ
めまいがする
角度がここまで残酷であるとは
今日の僕はここで死ぬのだろう
死体を残して僕は下山を始める



自由詩 故郷の山 Copyright 葉leaf 2009-06-30 11:01:18
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